Azureコスト最適化のベストプラクティス

PowerAutomate

Azure環境のコスト最適化は、アーキテクチャ設計から運用監視まで継続的な取り組みが不可欠である。

Azureコスト最適化のベストプラクティス

アーキテクチャ

コスト最適化の基盤は、適切なアーキテクチャ設計にある。クラウドネイティブなアプローチとして、ServerlessやPaaSサービスを優先的に採用し、IaaSに依存する範囲を最小限に抑える。これにより、インフラ管理の手間と固定コストを削減し、使用量に応じた課金モデルへ移行する。例えば、WebアプリケーションにはAzure App Service、非同期処理にはAzure Functions、データストアにはAzure SQL DatabaseやAzure Cosmos DBを選択する。コンピューティングリソースは、ピーク時の需要を満たしつつ、アイドル時のコストを最小限に抑えるよう、自動スケーリング構成を前提とする。

graph TD
    subgraph Presentation Tier
        A["Azure App Service: Web Frontend"]
    end

    subgraph Application Tier
        B["Azure Functions: API & Logic"]
    end

    subgraph Data Tier
        C["Azure SQL Database: Relational Data"]
        D["Azure Storage Account: Blob/Queue/File"]
    end

    subgraph Management & Monitoring
        E["Azure Monitor: Logs & Metrics"]
        F["Azure Cost Management: Budgets & Alerts"]
        G["Azure Policy: Governance & Compliance"]
    end

    A -- Calls API --> B
    B -- Reads/Writes --> C
    B -- Stores Data --> D
    E -- Collects Data From --> A, B, C, D
    F -- Uses Data From --> E
    G -- Enforces Rules On --> A, B, C, D

設定手順

コスト最適化は、デプロイメント段階から自動化された手順で組み込むことが重要である。Azure Policyを用いて、リソースのSKU制限やタグ付けの強制など、ガバナンスルールを設定する。また、開発/テスト環境のVMは、営業時間外に自動シャットダウンさせる設定を適用する。

以下は、Azure AutomationアカウントとPowerShell Runbookを使用して、特定のリソースグループ内のVMをスケジュール停止させる手順である。

# 1. Azure Automationアカウントの作成 (もし存在しない場合)
$resourceGroupName = "MyAutomationRG"
$location = "japaneast"
$automationAccountName = "MyVMScheduleAutomation"

New-AzResourceGroup -Name $resourceGroupName -Location $location -ErrorAction SilentlyContinue

New-AzAutomationAccount -ResourceGroupName $resourceGroupName `
    -Name $automationAccountName `
    -Location $location `
    -SkuName Basic `
    -ErrorAction Stop

Write-Host "Azure Automation Account '$automationAccountName' created or already exists."

# 2. Azure Automation Runbookの作成 (VMシャットダウンスクリプト)
# Runbookスクリプトを一時ファイルとして保存
$scriptContent = @"
param(
    [Parameter(Mandatory=\$true)]
    [string]\$ResourceGroupName
)

# Connect-AzAccount -Identity は、AutomationアカウントにマネージドIDが有効になっている場合に利用
# Runbookの実行アカウントが設定されていることを前提とします。
Connect-AzAccount -Identity

Write-Host "Stopping VMs in Resource Group: \$ResourceGroupName..."
\$vms = Get-AzVM -ResourceGroupName \$ResourceGroupName -ErrorAction SilentlyContinue

if (\$vms) {
    \$vms | Stop-AzVM -Force -ErrorAction SilentlyContinue | Out-Null
    Write-Host "VM shutdown process completed for Resource Group: \$ResourceGroupName."
} else {
    Write-Host "No VMs found in Resource Group: \$ResourceGroupName."
}
"@

$scriptPath = "StopVMs.ps1"
$scriptContent | Out-File -FilePath $scriptPath -Encoding UTF8

# RunbookをAutomationアカウントにアップロード
Write-Host "Importing Runbook '$scriptPath' to Automation Account '$automationAccountName'..."
Import-AzAutomationRunbook -ResourceGroupName $resourceGroupName `
    -AutomationAccountName $automationAccountName `
    -Path $scriptPath `
    -Type PowerShell `
    -Name "StopVMsRunbook" `
    -Force

Remove-Item $scriptPath # 一時ファイルを削除

Write-Host "Runbook 'StopVMsRunbook' imported successfully."

# 3. Runbookにスケジュールを追加
# スケジュール作成 (例: 毎日22:00 UTC)
$scheduleName = "DailyVMSchedule"
$startTime = (Get-Date).ToUniversalTime().AddDays(1).ToString("yyyy-MM-dd HH:00:00Z") # UTCで翌日0時に設定(実行開始日)
$interval = 1 # 1日ごと
$frequency = "Day"

Write-Host "Creating schedule '$scheduleName' for daily execution at 22:00 UTC..."
$schedule = New-AzAutomationSchedule -ResourceGroupName $resourceGroupName `
    -AutomationAccountName $automationAccountName `
    -Name $scheduleName `
    -StartTime $startTime `
    -DayInterval $interval `
    -FrequencyType $frequency `
    -IsEnabled $true `
    -ErrorAction Stop

Write-Host "Schedule '$scheduleName' created successfully."

# 4. Runbookとスケジュールをリンク
# パラメータを設定: 停止対象のVMがあるリソースグループ名
$targetResourceGroup = "MyDevTestVMs" # 実際のDev/Test VMのリソースグループ名に置き換える
$parameters = @{"ResourceGroupName" = $targetResourceGroup}

Write-Host "Linking Runbook 'StopVMsRunbook' with schedule '$scheduleName' for Resource Group '$targetResourceGroup'..."
Register-AzAutomationScheduledRunbook -ResourceGroupName $resourceGroupName `
    -AutomationAccountName $automationAccountName `
    -Name "StopVMsRunbook" `
    -Schedule $schedule `
    -Parameters $parameters `
    -ErrorAction Stop

Write-Host "Runbook 'StopVMsRunbook' linked to schedule '$scheduleName' successfully."

運用監視

Azure Monitorは、リソースの使用状況とパフォーマンスを継続的に監視し、コスト最適化の機会を特定する上で不可欠である。VM InsightやContainer Insight、Application Insightを通じて、CPU使用率、メモリ消費量、ネットワークI/Oなどのメトリクスを収集し、過剰なプロビジョニングがないかを確認する。Log Analyticsワークスペースでは、収集したログデータの保持期間を要件に合わせて設定し、過剰なストレージコストを回避する。また、SLA(サービスレベルアグリーメント)要件に基づき、Azure BackupやAzure Site Recoveryによるバックアップ・DR(災害復旧)戦略を策定する。RTO(目標復旧時間)やRPO(目標復旧時点)の要件と、それにかかるコストを比較検討し、適切なSKUとレプリケーションオプションを選択する。

セキュリティ

セキュリティ対策は、予期せぬコスト発生を防ぐためにも重要である。Azure Entra ID(旧 Azure Active Directory)を用いて、最小権限の原則を徹底する。Just-In-Time (JIT) アクセスやPrivileged Identity Management (PIM) を活用し、管理者権限の恒久的な付与を避け、必要な時のみ一時的に権限を昇格させる。Azureロールベースアクセス制御(RBAC)と条件付きアクセスを組み合わせることで、特定のIPアドレスからのアクセスのみ許可したり、準拠デバイスからのアクセスを強制したりといった詳細なアクセス制御を実施する。Microsoft Defender for Cloudは、セキュリティ体制を継続的に評価し、潜在的な脆弱性や誤った設定に対する推奨事項を提供するため、これに従いセキュリティスコアを向上させる。これにより、セキュリティ侵害によるデータ漏洩やサービス停止といった、高額な間接コストのリスクを低減する。

コスト

Azureにおけるコスト最適化は多岐にわたる戦略を含む。 1. リソースの適切なサイジング: Azure Advisorの推奨事項に従い、CPUやメモリ使用率が継続的に低いAzure Virtual Machines (VM) を適切なSKUへダウングレードする。特に開発/テスト環境では、必要以上に高性能なSKUを避ける。 2. Azure Reservations(予約インスタンス)の活用: 予測可能な安定したワークロード(例: VM、Azure SQL Database)には、1年または3年の予約インスタンスを適用し、オンデマンド料金と比較して最大72%のコスト削減を実現する。 3. Azure Hybrid Benefitの利用: 既存のオンプレミスWindows ServerおよびSQL ServerライセンスをAzureで再利用し、Azure Virtual MachinesやAzure SQL Databaseのライセンスコストを削減する。これは特に大規模な移行プロジェクトで大きな効果を発揮する。 4. Azure Spot Virtual Machines: 割り込み可能なワークロード(例: バッチ処理、開発/テスト環境)には、Azure Spot VMを利用することで、オンデマンド料金と比較して最大90%のコスト削減が可能である。ただし、リソースが不足した場合にVMが解放されるリスクを許容する必要がある。 5. 非稼働時間の自動シャットダウン・スケールダウン: 前述のPowerShellスクリプトやAzure DevTest Labsの機能を用いて、開発/テスト環境や営業時間外の環境でVMを自動停止させる。また、Azure App ServiceなどのPaaSサービスでは、営業時間外にインスタンス数をスケールダウンすることも検討する。 6. ストレージ階層の最適化: Azure Storageでは、アクセス頻度に応じてHot、Cool、Archiveなどの階層を使い分ける。ライフサイクル管理ポリシーを設定し、長期間アクセスされていないデータを自動的に低コストの階層へ移動させることで、ストレージコストを削減する。 7. データ転送コストの最適化: リージョン間のデータ転送やインターネットへのアウトバウンドデータ転送はコストが発生するため、設計段階で考慮し、データ局所性を高める、Azure CDNを活用するなどの対策を講じる。

落とし穴

コスト最適化に取り組む際に陥りやすい落とし穴が存在する。 – 未使用リソースの見落とし: VMの削除時に削除し忘れたディスク、ネットワークインターフェース、パブリックIPアドレス、スナップショットなどが継続的に課金されるケース。定期的な棚卸しとクリーンアップが必須である。 – 開発/テスト環境での過剰なプロビジョニング: 本番環境と同等またはそれ以上の高価なSKUを開発/テスト環境に適用してしまう。 – データ転送コストの見落とし: 特にリージョンをまたいだ大量のデータ転送や、インターネットへのアウトバウンド転送が高額なコストにつながることがある。 – 監視ログの過剰な保持期間: Azure MonitorのLog Analyticsワークスペースにおけるログデータの保持期間を必要以上に長く設定することで、ストレージコストが増大する。 – バックアップ/DRの過剰な設定: RTO/RPO要件に対して過剰なバックアップ頻度やレプリケーションタイプ(例: ZRSではなくGRSを選択)を設定することで、不要なコストが発生する。

まとめ

Azure環境のコスト最適化は、単一の施策ではなく、アーキテクチャ設計、設定、運用監視、セキュリティといった多角的な視点から継続的にアプローチすべきである。クラウドネイティブなサービス活用、IaCによる自動化、Azure Entra IDによる権限管理、Azure Monitorによる可視化、そしてAzure Cost Managementによる予算管理と分析を通じて、技術的優位性を保ちつつ、ビジネス価値を最大化するコスト効率の高いクラウド運用を実現する。

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