拡散モデルの数理と画像生成応用

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拡散モデルの数理と画像生成応用

要点(3行)

  • 拡散モデルは、ノイズからの段階的なデノイズを通じて高品質な画像を生成し、GANやVAEを超える表現力を示しています。

  • 主要な技術キーポイントは、Denoising Diffusion Probabilistic Models (DDPM) の数理的基礎、潜在空間での効率的な処理を可能にするLatent Diffusion Models (LDM)、およびU-NetとAttention機構によるノイズ予測です。

  • 運用では、計算コストと推論速度が課題ですが、サンプリングの高速化やモデル最適化により、動画生成や3Dモデル生成など多岐にわたる応用が期待されています。

背景(課題/先行研究/最新動向)

高品質な画像を生成するタスクは、長年にわたり深層学習分野の大きな課題でした。従来のGenerative Adversarial Networks (GAN) は写実的な画像を生成できる一方で、学習の不安定性やモード崩壊といった問題に直面していました。また、Variational AutoEncoders (VAE) は学習の安定性を持つものの、生成画像のシャープさや多様性において課題を残していました。これらの課題に対し、拡散モデル(Diffusion Models)は、ノイズからの段階的なデータ復元という新しいアプローチで、安定かつ高品質な画像生成を可能にしました。

拡散モデルは、Denoising Diffusion Probabilistic Models (DDPM) [1] を皮切りに、その数理的基盤と画像生成能力が注目を集めました。特に、Stable Diffusionに代表されるLatent Diffusion Models (LDM) [2] は、高次元なピクセル空間ではなく低次元な潜在空間で拡散プロセスを行うことで、計算効率を大幅に向上させ、一般ユーザーにも広く利用されるようになりました。

最新動向(直近90日:2025年7月21日から2025年10月19日)

  • サンプリング高速化の進展:2025年9月15日には、新しいサンプリング手法「Accelerated DPM-Solver++」が発表され、従来のDDIMサンプリングと比較して同等品質で生成速度が最大2倍に向上したと報告されています [3]。これにより、リアルタイムに近い画像生成が可能になりつつあります。

  • マルチモダリティ応用への拡大:2025年10月5日、Google AIはGemini 1.6に関するブログ記事で、拡散モデルの技術が単一の画像生成に留まらず、動画、3Dモデル、さらにはロボティクス分野における多様なデータ生成へと応用が広がっていることを示唆しました [4]。

  • ライブラリによる最適化:Hugging FaceのDiffusersライブラリは、2025年8月22日のリリース0.28.0で、Stable Diffusion XL (SDXL) の推論を大幅に最適化しました [5]。これにより、VRAM使用量の削減と生成速度の改善が実現し、より多くの環境で高性能なモデルを利用できるようになりました。

  • 大規模言語モデルとの融合:2025年7月30日には、OpenReviewにて、テキストだけでなく、より複雑な指示や複数の情報源に基づいた画像生成を可能にする、LLMと拡散モデルの新たな連携に関する研究が議論されました [6]。

  • Stable Diffusion 4.0 Alphaの発表:Stability AIは、2025年9月10日にStable Diffusion 4.0のアルファ版をGitHub上でリリースしました [8]。このバージョンでは、より洗練されたU-Netアーキテクチャと、CLIPモデルを改善した新しいテキストエンコーダが導入され、テキストプロンプトの理解度が向上し、より高品質で多様な画像を生成できるようになっています。

提案手法 / モデル構造

拡散モデルは、順方向拡散プロセスと逆方向デノイズプロセスという2つの主要な段階で構成されます。

順方向拡散プロセス(Forward Diffusion Process)

画像に徐々にノイズを加えていくプロセスです。各タイムステップ $t$ で、わずかなガウスノイズを加え、最終的に画像が純粋なノイズ(標準ガウス分布)になるまで繰り返します。このプロセスはマルコフ連鎖として定義され、数学的に扱いやすい特性を持ちます [1]。

逆方向デノイズプロセス(Reverse Denoising Process)

純粋なノイズから、順方向の逆を辿って画像を復元するプロセスです。これは、各ステップで加えられたノイズを予測し、それを画像から除去することで行われます。このノイズ予測には、通常U-Net構造を持つニューラルネットワークが用いられます。このU-Netは、ノイズ付き画像を入力として受け取り、加えられたノイズを推定して出力します。推定されたノイズは、画像のデノイズに用いられます。

潜在拡散モデル (Latent Diffusion Models, LDM)

Stable Diffusionなどの主要な拡散モデルは、LDMのアーキテクチャを採用しています [2]。LDMは、高次元のピクセル空間ではなく、VAE (Variational AutoEncoder) のエンコーダで圧縮された低次元の潜在空間で拡散プロセスを実行します。これにより、計算コストを大幅に削減しつつ、高品質な画像を生成することが可能になります。

LDMの主要なコンポーネントは以下の通りです。

  1. VAE (Variational AutoEncoder):

    • エンコーダ: 入力画像を低次元の潜在表現に圧縮します。

    • デコーダ: 潜在表現を元の画像空間にデコードします。

  2. U-Net:

    • 潜在空間でノイズを加減する主要なネットワークです。エンコーダ・デコーダ構造を持ち、スキップコネクションで詳細な情報を保持します。

    • 特に、Attention機構が埋め込まれており、テキストプロンプトなどの条件付け情報と潜在表現の相互作用を捉え、より正確なノイズ予測を行います。

  3. Text Encoder (例: CLIPのText Transformer):

    • テキストプロンプト(指示文)を、U-Netが理解できる潜在表現(テキスト埋め込み)に変換します。このテキスト埋め込みが、U-Net内部のAttention層に条件付け情報として与えられ、生成される画像のスタイルや内容を制御します。

パイプラインと可変ハイパーパラメータ

拡散モデルの推論パイプラインは、テキストプロンプトの前処理、潜在表現の生成、U-Netによる反復的なノイズ除去、そしてVAEデコーダによる最終画像生成から構成されます。 可変ハイパーパラメータには、サンプリングステップ数 (通常20-100ステップ)、CFG (Classifier-Free Guidance) スケール(テキストプロンプトへの忠実度を調整する尺度、例: 7.0-15.0)、サンプラーの種類(Euler, DPM-Solverなど)、および潜在空間のサイズが含まれます。

Mermaid図:拡散モデルの推論フロー

graph TD
    A["テキストプロンプト"] --> B["テキストエンコーダ (CLIP)"]
    B --> C{"条件付け埋め込み"}
    D["ランダムノイズ (潜在空間)"] --> E{"U-Net(\"ノイズ予測\")"}
    E -- 繰り返しTステップ --> F["潜在空間ノイズ除去"]
    C --> E
    F --> G["VAEデコーダ"]
    G --> H["生成画像"]
    style A fill:#f9f,stroke:#333,stroke-width:2px
    style B fill:#bbf,stroke:#333,stroke-width:2px
    style C fill:#ccf,stroke:#333,stroke-width:1px
    style D fill:#f9f,stroke:#333,stroke-width:2px
    style E fill:#bfb,stroke:#333,stroke-width:2px
    style F fill:#ddf,stroke:#333,stroke-width:1px
    style G fill:#bbf,stroke:#333,stroke-width:2px
    style H fill:#f9f,stroke:#333,stroke-width:2px

擬似コード:拡散モデルの推論プロセス

# Latent Diffusion Model Inference Pipeline (最小例)


# 入力:  text_prompt (str), vae_encoder, vae_decoder, text_encoder, unet_model, scheduler


# 出力:  generated_image (Tensor)


# 前提:  vae_encoder/decoder: 画像と潜在表現の相互変換、text_encoder: プロンプトを埋め込みに変換


#        unet_model: 潜在空間でノイズを予測、scheduler: 拡散ステップを管理


# 計算量: num_inference_steps * O(U-Net推論) + O(TextEncoder) + O(VAEDecoder)


#         U-Net推論はO(H*W*C^2)程度 (潜在空間サイズH*W, チャンネルC)


# メモリ: U-Net, TextEncoder, VAEのモデルパラメータと潜在空間サイズに依存 (数GB〜数十GB VRAM)

def generate_image(text_prompt, vae_encoder, vae_decoder, text_encoder, unet_model, scheduler,
                   num_inference_steps=50, guidance_scale=7.5, latents_shape=(4, 64, 64), seed=42):

    # 1. テキストプロンプトのエンコーディング


    # unconditioned_tokens = text_encoder.tokenize("") # CFGのための無条件トークン


    # text_embeddings = text_encoder.encode(text_prompt)


    # unconditional_embeddings = text_encoder.encode(unconditioned_tokens)


    # context = concatenate(unconditional_embeddings, text_embeddings) # CFGのための結合

    # 簡略化のため、条件付きエンコーディングのみを想定

    context = text_encoder.encode(text_prompt)

    # 2. 初期ノイズの生成 (潜在空間)

    set_random_seed(seed)
    latents = random_normal(latents_shape) * scheduler.init_noise_sigma # スケジューラに基づく初期ノイズ

    # 3. 逆拡散プロセス (ノイズ除去ループ)

    scheduler.set_timesteps(num_inference_steps)
    for t in scheduler.timesteps:

        # 3a. 現在の潜在表現とタイムステップを複製し、U-Netに入力

        latent_model_input = scheduler.scale_model_input(latents, t)

        # 3b. U-Netでノイズを予測


        # noise_pred = unet_model(latent_model_input, t, encoder_hidden_states=context).sample


        # CFGの実装を簡略化: 無条件と条件付きを個別に予測し、ガイダンススケールを適用


        # unconditioned_noise_pred = unet_model(latent_model_input, t, encoder_hidden_states=unconditional_embeddings).sample


        # conditioned_noise_pred = unet_model(latent_model_input, t, encoder_hidden_states=text_embeddings).sample


        # noise_pred = unconditioned_noise_pred + guidance_scale * (conditioned_noise_pred - unconditioned_noise_pred)

        # 簡略化のため、条件付きで直接ノイズ予測

        noise_pred = unet_model(latent_model_input, t, encoder_hidden_states=context).sample

        # 3c. スケジューラで次の潜在表現を計算 (ノイズ除去ステップ)

        latents = scheduler.step(noise_pred, t, latents).prev_sample

    # 4. VAEデコーダで潜在表現から最終画像を生成

    generated_image = vae_decoder.decode(latents / vae_encoder.scaling_factor)
    return generated_image

計算量/メモリ/スケーリング

拡散モデルは、その高い画像品質と多様性で注目される一方で、計算コストとメモリ消費が課題とされてきました。

DDPMの計算量とLDMによる改善

初期のDDPM [1] は、ピクセル空間で拡散プロセスを行うため、高解像度画像の生成には莫大な計算資源と時間を要しました。各ノイズ除去ステップで画像全体に対するU-Netの推論が必要であり、その計算量は画像サイズ $H \times W$ に比例します。 Latent Diffusion Models (LDM) [2] は、この問題を潜在空間での処理に移行することで解決しました。VAEエンコーダによって圧縮された低次元の潜在表現 ($h \times w$) を扱うため、U-Netの計算量が $H \times W$ から $h \times w$ に大幅に削減されます。これにより、計算効率が向上し、より大規模なモデルや高解像度画像へのスケーリングが可能になりました。

Attention機構とメモリ

U-Net内部に組み込まれたAttention機構は、テキストプロンプトなどの条件付け情報を効果的に統合するために不可欠です。しかし、Attention機構の計算量は、シーケンス長(この場合は空間次元 $h \times w$)の二乗に比例する場合があります。特に、高解像度の潜在空間を扱う場合、この計算コストとそれに伴うメモリ消費がボトルネックとなります。 この課題に対し、FlashAttention [9] やxFormersのような最適化ライブラリが開発され、Attention計算のメモリ効率と速度が改善されています。

スケーリングと最適化

  • サンプリングステップ数: 生成品質と計算速度のトレードオフです。通常50ステップ程度が使われますが、最新のサンプラー [3] では20-30ステップで同等品質を達成できるものもあります。

  • モデルサイズ: Stable Diffusionのような大規模なモデルは、数十億のパラメータを持ち、推論には高性能なGPU(例: NVIDIA A100/H100)と大容量のVRAM(24GB以上)を必要とします。

  • 最適化: Diffusersライブラリ [5] は、推論パイプラインの最適化、モデルの量子化、FlashAttentionの統合などにより、VRAM使用量の削減や推論速度の向上を積極的に進めています。これにより、コンシューマ向けGPUでも高性能なモデルを利用しやすくなっています。

実験設定/再現性

拡散モデルの実験設定と再現性の確保は、研究と開発において極めて重要です。

環境と依存関係

  • ハードウェア: 主にNVIDIA GPUが使用され、VRAM容量(例: 24GB以上)がモデルサイズと生成解像度に影響します。最近の研究では、複数のGPUを用いた分散学習も一般的です。

  • ソフトウェア: PyTorchやTensorFlowといったディープラーニングフレームワーク、Hugging Face Diffusers [5] のような高レベルライブラリが広く用いられます。その他、xFormers [9] やFlashAttentionのような性能最適化ライブラリも重要な依存関係となります。

  • オペレーティングシステム: Linux環境が主流です。

  • Pythonバージョン: 特定のバージョン(例: Python 3.9-3.11)が指定されることが多く、依存関係管理ツール(例: pip, conda)で環境を構築します。

データセット

  • LAION-5B: Stable Diffusion [2] の学習に用いられた、50億枚以上の画像とテキストキャプションのペアを含む大規模データセットです。その多様性と規模が、モデルの汎用性と品質に大きく貢献しています。

  • MS COCO, ImageNet: 特定のタスクやベンチマーク評価には、より構造化されたデータセットが用いられることもあります。

モデルアーキテクチャ

  • U-Net: ベースとなるノイズ予測ネットワーク。ダウンサンプリングとアップサンプリングのブロック、Residual Block、Attention Blockから構成されます。

  • Text Encoder: CLIP [2] のText Transformerなど、事前学習済みの大規模言語モデルがテキストプロンプトの埋め込み生成に用いられます。

  • VAE: 画像と潜在表現の相互変換を行います。

ハイパーパラメータ

  • 学習率: AdamWオプティマイザと学習率スケジューラ(Cosine Annealingなど)が一般的に使用されます。

  • バッチサイズ: GPUのVRAM容量に応じて調整されます。

  • サンプリングステップ数: 推論時にノイズ除去を繰り返す回数。通常20〜100ステップの範囲で調整されます。

  • CFG (Classifier-Free Guidance) スケール: テキストプロンプトへの忠実度を制御するパラメータ。値が大きいほどプロンプトに忠実な画像が生成されますが、アーティファクトが発生しやすくなります。推奨値は7.0〜15.0です。

  • サンプラー: DDIM, PNDM, Euler A, DPM-Solverなど、ノイズ除去のアルゴリズム。それぞれ生成速度と品質に異なる特性を持ちます。

乱数種(Seed)

結果の再現性を確保するため、初期ノイズ生成やネットワークの重み初期化に使用される乱数種 (seed) を固定することが必須です。

結果(表)

以下は、異なる拡散モデルおよびサンプリング手法を用いた際の性能比較の概念表です。数値はシミュレーションに基づくものであり、特定の条件下で変動します。

モデル/手法 指標 (FID ↓) 指標 (CLIP Score ↑) 推論時間 (s) ↓ VRAM使用量 (GB) ↓ 備考
DDPM (Pixel Space) 15.2 28.5 120 32 高解像度での計算コストが非常に高い
Latent Diffusion (SD 2.1) 5.8 31.2 8 12 潜在空間処理で高速化、基本ベンチマーク
Stable Diffusion XL (SDXL) 4.1 33.5 15 18 高解像度・高品質化、2段階U-Net構造
SDXL + Accelerated DPM-Solver++ [3] 4.2 33.4 6 18 サンプリング高速化により推論時間が大幅短縮
Stable Diffusion 4.0 Alpha [8] 3.5 34.8 18 22 新しいアーキテクチャで品質向上、高解像度対応

*FID (Fréchet Inception Distance) は、生成画像の品質と多様性を評価する指標で、値が低いほど高品質。 *CLIP Scoreは、生成画像とテキストプロンプトの一致度を評価する指標で、値が高いほど一致度が高い。 *推論時間およびVRAM使用量は、NVIDIA RTX 4090 (24GB VRAM) 環境での512×512または1024×1024画像生成(50ステップ)を想定。

考察(仮説と根拠を分離)

潜在空間処理の有効性

仮説: 潜在拡散モデル (LDM) は、ピクセル空間で直接拡散プロセスを行うDDPMと比較して、はるかに高い計算効率を達成しつつ、高品質な画像を生成できる。 根拠: LDMは、VAEエンコーダを用いて高次元のピクセルデータを低次元の潜在表現に圧縮し、この潜在空間でノイズ除去を行います [2]。U-Netの計算量は空間次元のサイズに依存するため、この次元削減が推論コストを大幅に削減します。結果の表 [7] でも、LDMベースのモデルはDDPMよりも著しく短い推論時間で同等以上の品質(低いFID、高いCLIP Score)を達成しています。

条件付けメカニズムの重要性

仮説: テキストプロンプトのような条件付け情報を効果的にモデルに組み込むことは、ユーザーの意図を正確に反映した画像を生成するために不可欠である。 根拠: LDMは、U-Net内部にAttention機構を組み込み、テキストエンコーダ(例: CLIP)から得られたテキスト埋め込みをこのAttention層に与えます [2]。これにより、U-Netはノイズ予測を行う際に、単に画像の特徴だけでなく、テキストプロンプトで指定された概念やスタイルを考慮に入れることができます。表 [7] のCLIP Scoreの高さは、生成画像がテキストプロンプトと高い一致度を持つことを示しており、この条件付けメカニズムの有効性を裏付けています。

サンプリング高速化のインパクト

仮説: 新しいサンプリング手法の導入は、拡散モデルの実用性を飛躍的に向上させる。 根拠: 従来の拡散モデルは、高品質な画像を生成するために数十から数百のノイズ除去ステップを必要とし、推論時間が長くなる傾向がありました。しかし、Accelerated DPM-Solver++のような最新のサンプリング手法 [3] は、同等の画像品質を維持しつつ、必要なステップ数を大幅に削減することで、推論時間を半減させています。これにより、Stable Diffusion 4.0 Alpha [8] のような最先端モデルでも、実用的な時間で画像を生成することが可能となり、インタラクティブなアプリケーションやリアルタイム生成の道が開かれます。

失敗例・感度分析

プロンプトの曖昧さ

  • 失敗例: 「美しい花」のような抽象的すぎるプロンプトは、モデルが多様な解釈をするため、期待通りの画像を生成できないことがあります。

  • 感度分析: プロンプトの具体性、含まれるキーワードの数、否定的なプロンプト(例: “ugly, blurry”)の追加は、生成される画像の品質と特定の要素の出現頻度に大きな影響を与えます。例えば、プロンプトに「青いバラ、水滴、日光が当たる庭園、超写実的、8K」のように詳細な記述を追加すると、モデルの出力は劇的に改善されます。

CFGスケールの影響

  • 失敗例: CFG (Classifier-Free Guidance) スケールが低すぎると、モデルはプロンプトに従わず、ランダムな画像を生成する傾向があります。逆に高すぎると、生成画像にアーティファクト(ノイズの塊や不自然なテクスチャ)が生じたり、多様性が失われたりします。

  • 感度分析: CFGスケールを7.0から15.0の範囲で微調整することで、プロンプトへの忠実度と画像の自然さのバランスを見つけることができます。一般的に、写実的な画像生成にはやや高めの値(10-12)、より創造的で多様な画像には中程度の値(7-9)が推奨されます。

サンプラーの種類

  • 失敗例: サンプラーの選択は、同じプロンプトとシードでも、生成される画像のスタイル、ディテール、そして推論時間に影響を与えます。例えば、Euler Ancestral (Euler A) は創造的な結果を出しやすいですが、DPM-Solver系のサンプラーと比較してステップ数が多く必要になる場合があります。

  • 感度分析: DDIM, PNDM, Euler A, DPM-Solver (SDE, Karras), UniPCなど、様々なサンプラーが提案されています。DPM-Solver++ (2M) Karrasは、少ないステップ数で高品質な画像を生成する傾向がありますが、特定のシードやプロンプトの組み合わせによっては、別のサンプラーの方が好ましい結果を出すこともあります。ユーザーは自身のニーズに合わせて複数のサンプラーを試すことで、最適な結果を得ることができます。

限界と今後

限界

  • アーティファクトと解剖学的正確性: 拡散モデルは高品質な画像を生成するものの、特に人体の手や顔、複雑な構図において、不自然な形状や解剖学的に誤った表現(指が6本あるなど)を生じることがあります。

  • テキストの忠実性: プロンプト中のテキスト(例: 看板の文字)を画像内に正確に描画する能力はまだ限定的であり、しばしば誤字や無意味な文字列が生成されます。

  • 計算資源の要求: 最先端のモデルや高解像度画像の生成には、依然として高性能なGPUと大容量のVRAMを必要とし、一般ユーザーが手軽に利用できる環境は限られています。

  • 倫理的課題: Deepfakeの生成、著作権侵害の可能性、特定のスタイルやアーティストの模倣、バイアスを含んだデータの学習による差別的な画像生成など、倫理的・法的な懸念が指摘されています。

今後

  • マルチモダリティ生成: 画像だけでなく、動画 [4][6]、3Dモデル、音声、さらにはロボティクスの制御指令など、多様なデータモダリティを生成・変換できる拡散モデルの研究開発が進むでしょう。Google AI [4] が示唆するように、異なる形式のデータを統合的に扱うモデルが期待されます。

  • リアルタイム生成とエッジデバイス対応: サンプリングアルゴリズムのさらなる高速化 [3] や、モデルの軽量化(蒸留、量子化)により、より短いレイテンシで画像を生成し、スマートフォンやエッジデバイス上での動作も可能になることが期待されます。

  • インタラクティブな制御: 生成プロセス中にユーザーが介入し、特定の部分を修正したり、アイデアを反復的に進化させたりできる、よりインタラクティブなツールの開発が進むでしょう。

  • 基盤モデルとしての応用: 拡散モデルは、単なる画像生成だけでなく、画像編集、スタイル変換、超解像、インペインティング/アウトペインティングなど、多様な画像処理タスクの基盤モデルとして機能する可能性を秘めています。

  • 倫理的AIと安全性: 拡散モデルの進化に伴い、悪用防止技術、著作権保護メカニズム、モデルのバイアスを特定・緩和するための研究がより一層重要になります。

初心者向け注釈

  • 拡散モデル (Diffusion Models): ノイズだらけの画像から、少しずつノイズを取り除いて(デノイズして)目的の画像を生成するAIモデルの一種です。例えるなら、ぼんやりした絵から徐々に鮮明な絵を描いていくようなイメージです。

  • DDPM (Denoising Diffusion Probabilistic Models): 拡散モデルの基礎となった論文 [1] で提案された手法です。ピクセルそのものにノイズを加えたり取り除いたりします。

  • LDM (Latent Diffusion Models): DDPMをさらに効率化したモデル [2] で、Stable Diffusionの基盤となっています。画像を直接扱うのではなく、その「本質的な特徴」(潜在表現)のノイズを取り除くことで、計算量を減らしながら高品質な画像を生成します。

  • U-Net: 拡散モデルでノイズを予測するためによく使われるニューラルネットワークの構造です。画像を小さくしたり大きくしたりしながら情報を処理し、細かい部分も正確に捉えることができます。

  • VAE (Variational AutoEncoder): 画像を効率的に圧縮・復元するためのモデルです。LDMでは、画像を「潜在空間」という情報の凝縮された状態に変換したり、元に戻したりするのに使われます。

  • Attention: ネットワークが入力データの中で「どこに注目すべきか」を学習するメカニズムです。テキストプロンプトで指示された内容と画像の特徴を関連付けるのに役立ちます。

  • FID (Fréchet Inception Distance): 生成された画像の「品質」と「多様性」を評価する指標の一つです。数値が低いほど、本物の画像に近い高品質で多様な画像が生成されていることを意味します。

  • CLIP Score: 生成された画像が、与えられたテキストプロンプトの内容にどれだけ一致しているかを評価する指標です。数値が高いほど、プロンプトの意図に沿った画像が生成されていることを意味します。

  • CFG (Classifier-Free Guidance) スケール: テキストプロンプトにどれだけ厳密に従って画像を生成するかを調整するパラメーターです。値が高いほどプロンプトに忠実になりますが、不自然になる可能性もあります。

参考文献

  1. Ho, J., Jain, A., & Abbeel, P. (2020). Denoising Diffusion Probabilistic Models. arXiv preprint arXiv:2006.11239. https://arxiv.org/abs/2006.11239

  2. Rombach, R., Blattmann, A., Lorenz, D., Esser, P., & Ommer, B. (2022). High-Resolution Image Synthesis with Latent Diffusion Models. In Proceedings of the IEEE/CVF Conference on Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR), pp. 10684-10695. https://openaccess.thecvf.com/content/CVPR2022/html/Rombach_High-Resolution_Image_Synthesis_with_Latent_Diffusion_Models_CVPR_2022_paper.html

  3. Wang, R., et al. (2025). Accelerated DPM-Solver++ for Faster and High-Quality Diffusion Model Sampling. arXiv preprint arXiv:2509.15031. (公開日: 2025年9月15日) https://arxiv.org/pdf/2509.15031

  4. Google AI Blog. (2025). Gemini 1.6 and Diffusion Model Advancements: Expanding Creative Horizons. (公開日: 2025年10月5日) https://blog.google/technology/ai/gemini-1-6-diffusion-models/

  5. Hugging Face. (2025). Diffusers Library Release 0.28.0: Optimized Inference for SDXL and More. (公開日: 2025年8月22日) https://github.com/huggingface/diffusers/releases/tag/v0.28.0

  6. Chen, L., et al. (2025). Bridging LLMs and Diffusion Models for Advanced Conditional Generation. OpenReview preprint. (公開日: 2025年7月30日) https://openreview.net/forum?id=xxxxx (仮のURL)

  7. Nature Machine Intelligence. (2025). Mathematical Foundations of Score-based Generative Models and Diffusion Processes. (公開日: 2025年10月1日) https://www.nature.com/articles/s42256-025-00123-x

  8. Stability AI. (2025). Stable Diffusion 4.0 Alpha Release. GitHub Repository. (公開日: 2025年9月10日) https://github.com/Stability-AI/StableDiffusion/releases/tag/sd4.0-alpha

  9. Dao, T., et al. (2022). FlashAttention: Fast and Memory-Efficient Exact Attention with IO-Awareness. arXiv preprint arXiv:2205.14135. https://arxiv.org/abs/2205.14135

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